Surrounded By Football -サッカーライターが考える-

自分は、サッカーを中心にスポーツ全般を扱う場所に軸足を置きつつ、書くこと以外にもさまざまな仕事をしています。スポーツに囲まれて毎日を送る事ができて幸せです。ここでは、サッカーのことも書きますが、それ以外の話題も。アウトプットの場として用意したものです。シェアして頂けましたら喜びますので、よろしくお願いします。

さいたまスタジアムの横断幕について、意見を述べる

土曜日。担当チームである川崎が、90分+5という文字通り試合終了間際に喫した失点で、ショックすぎる敗戦を喫した。塩谷選手のFKは素晴らしかった。水戸時代から好きな選手だったが、日の丸を背負う姿を見たいものである。改めてそう思った一戦。ともかくあの敗戦は今年一番と言っていいほどショックだったのだが、数時間後に話題になった出来事が、その"年1"のショックを塗り替えてくれた。

 

ご存知、さいたまスタジアムの客席入り口に掲げられていた"JAPANESE ONLY"の断幕そのものである。
 
先週のリーグ開幕戦のこと。万博で行われたG大阪vs浦和において、浦和の李忠成選手がコールされた際にブーイングが起こったという声を聞いたのだが、確証はなかった。その件もありもやもやしていた中での、この出来事である。
 
全体の流れは以下のリンクに詳しい。

埼玉スタジアム浦和ゴール裏ゲートに張られた「JAPANESE ONLY」の弾幕について - Togetterまとめ

 

"JAPANESE ONLY"の意図するところは、当事者のみぞ知るところであるし、誰に向けてなのかはわからない。それはベンチ外となって現在怪我の治療中であるマルシオ・リシャルデス選手に向けてなのか?はたまたペトロビッチ監督に向けてだろうか。こう考えることもできるだろうが、現実的ではない。というのも、"ミシャ体制"になって以降、そしてマルシオ・リシャルデスという助っ人ブラジル人が浦和に加入して以降、排外主義を表に出すような行為はネット上でこんなにも話題になることはなかったのがその理由だ。自分はそれなりに情報感度が高いと自負しているし、そういう点からも上に出した2人の人物に当てての弾幕ではないと断言できる。そう考えると誰に向けてか?

前述したG大阪戦での出来事から予測するに、もともと韓国籍であった李忠成選手にむけてのものという考えでーこう考えること自体が苦しいのだがー、間違いないだろう。

ともかく、紛れも無くこのような弾幕を掲げるのは"差別行為"である。多くの人が言及している通り、Jリーグの規約には、はっきりと差別行為を禁じる文章が記されている。

"Jリーグ関係者は、いかなるものであれ、人種、性、言語、宗教、政治またはその他の事由を理由とする国家、個人または集団に対する差別を行ってはならない
 
そもそも、明文化せずとも当たり前のことなのだが。ともかくこの浦和の一サポーター(もはやサポーターと呼びたくないが)の行為は、規約違反である。自身の身勝手な行為によって愛するクラブが罰則を受ける可能性を、考えなかったのだろうか。それを考えられない時点で、サポーターではないと思う。それに、はっきりいって悪印象しか与えないこの行為は、普段サッカーを、Jリーグを見ない人間の目にどう映るか。
 
「サッカーを見に来る人って平気で、表立って差別発言をするんだ…」という印象を持たれ、それゆえに"サッカー"というスポーツが忌諱される運命になるかもしれない。試合の入場者数において下降の一途をたどるJリーグにおいて、こういう新たなファンとなりえる可能性のある人物が主体的にサッカーから距離を置くことに繋がってしまうことは、もちろん好ましくない。つまり、この行為は日本サッカー界にとっても大きなダメージなのである。
クラブ引いてはリーグは早急に関係者を洗い出して処分を下してほしい、と強く願う。
ただそのクラブも横断幕を早急に撤去することに二の足を踏んでいたようだが。これもまた問題であり、それがことを大きくさせたとも感じている。こういった対応に慣れていなかったという見解もあるかと思うが、この場で下された判断は最適でなかった。
 

https://twitter.com /tonji5/status/442281928092180480

槙野選手も、こう嘆く。悲痛の叫びだ。

 
話は変わるが、昨年度のユニバーシアードを戦ったメンバー20人にインタビューを撮りに行ったのだがそのインタビューの項目で"自分にとってユニバーシアードのメンバーとはどういう存在?"というのがあった。
その質問に対して法政大から甲府に加入した松本大輝が"ファミリー"と答えていたのが印象深い。『勝ち抜くためにはチームはファミリーでなければいけない』とも言っていた。
 
(松本の発言は7:35辺り)
 
この言葉を、そっくりそのまま浦和レッズに関わる人たちに投げかけたい。試合に勝つために、チームに関わる人間全てがそれを喜び合うために、今回のこの行為は"ファミリー" のやる行為だろうか?
 
 浦和レッズは日本一とも言える数の、そして熱いサポーターをかかえ、アジア制覇の歴史も誇るビッグクラブである。正直、このチームがJリーグを、そして日本サッカーをもっとリードしていってほしいと自分自身、強く望んでいる。ただこのままではリードする存在になんて到底成り得ないし、サッカーの現場で人種差別を行うようなクラブを、アジア引いては世界の舞台に送り出すことは出来ない。
 
 スポーツはそういった民族や宗教、人種の壁をとっぱらって共通の感動を与えられる最高の道具であり、その"共感"が異なる出自や立場の人間を繋ぐ。オリンピックも、その憲章に書かれている通り、スポーツを通じて平和の社会を気づくことを目的の1つとしている。なのに、今回の出来事はどうだ。スポーツを発端に差別問題に火を注いだ。これは本来あるべきスポーツの姿ではない。サッカー史おいて、消えること無く刻まれる汚点を、Jリーグが作ってしまった。正直いって海外で見られるサポーターからの人種差別発言に端を発した問題と類似の出来事が、この日本で、Jリーグで起こるとは思っていなかった。それだけに、今回の出来事は本当にショックである。
 
最後に、自分が愛してやまないドラガン・ストイコビッチ氏が外務省にて行ったスピーチの、最も好きな箇所を記す。
 
世界のクラブチームでは、ありとあらゆる国、民族、宗教、言語のプレイヤーが一つのチームを形成しています。フットボールの世界ではそれが当たり前ですから、私自身、チームメイトが何処の国の出身だとか、どの民族だとか、全く意識すらしませんでした。
(中略)
私は、一貫して「スポーツと政治は別である」と言い続けてきました。その思いは今も同じです。私は政治家ではなく、国のシステムや経済政策を変えることは 出来ません。しかし、フットボールという共通の言語、誰もが知っている言葉、誰もが愛するテーマを通じて、フットボール選手が平和のために貢献することを 願っており、それは可能だと信じています。

 

 これを読んで、何を思うだろう。

 

 

今日はこんなところです。